証券会社という言葉を聞いて、株等の金融商品取引を仲介する会社ということはわかるけれども業界としての全体像や組織の中の人々の業務内容は意外とわからないのではないでしょうか。
この記事では証券業界をテーマにしたおすすめの本を紹介します。
今回紹介する本を読むことで、証券業界の成り立ちから、戦前、戦後、バブル、リーマンショックの歴史を網羅的に把握することができます。
目次
戦前~証券会社の勃興期をテーマにした作品
日本では家計の貯蓄率が高くて投資に振り分けている割合が世界の先進国と比較すると低いと言われています。
ましてや戦前の時代となると、資産運用という概念自体多くの人々にとっては認識していなかったのではないでしょうか。
そんな時代に今の大手証券会社につながる萌芽がありました。
証券王: 野村証券を起ち上げた男 梅林貴久生
日本証券業界の巨人、野村證券を立ち上げた野村徳七氏の生涯を描いた作品です。
江戸時代に世界初の先物取引所、堂島の米会所が誕生したと言われていますが、いわゆる現在の証券会社が誕生したのはこの野村徳七氏の時代(明治時代)になります。
勝てば王侯、負ければ地獄―狂風怒涛、激動の株式相場を、血の汗を滴らせつつ、駆け上っていく野村徳七。零細な両替商の二代目から身を起こし、明治、大正、昭和という時代の奔流に挑み、世界のノムラの基礎を構築した、日本の証券王。そこには、数知れぬ苦悩と挫折、そして野望があった。
父親が経営していた野村商店を引き継いで両替、債券、株式の取り扱いをするようになり、いくつもの大勝負を乗り越えて野村銀行(現在のりそな銀行)、野村不動産等を擁する一大財閥を築き上げていきます。
手に汗握る展開の連続であっというまに読み終えてしまうことができます。
戦後(1960~1980年代)高度経済成長期をテーマにした作品
日本の高度成長期、戦後の荒廃から一気に世界有数の経済大国へと変化していく最も勢いのある時代です。
この成長時代、各証券会社は苛烈な競争の中で、事業を推進していきます。
兜町物語 清水一行
超特ダネ山一証券の経営危機を追っていたルポライターの安部は、地方紙の報道協定破りで夢破れ、作家への道を狙う。が、その混乱のなかで、興業証券の谷川と知りあった。経営再建のため大抜擢をうけた谷川は、もちまえの剛腕で昔気質の経営陣を一気に刷新し、危機的な状態を改善するとともに、首位野村証券の牙城に肉迫する。しかし、過度の効率経営の追求は、興業証券の足腰を蝕みはじめていた。苛烈な競争に明けくれる兜町を舞台に、それぞれの思惑を張った2人の男の相場の行方は…。
経済小説の第一者の一人、清水一行氏の不朽の名作です。
物語内での直接の言及はありませんが、舞台となる興業證券は現在のSMBC日興証券がモデルと言われています。
現在の日興証券は遠山一族が経営する川島屋商店と日本興業銀行(現みずほ証券)の債券部門の合併にルーツがあります。
そのオーナー一族である遠山一族から日興証券中興の祖とも言われる中山好三氏に実権が移り、隆盛を極めていく様を力強く描いています。(あくまでモデルとしてではありますが)
現在はこの時代ほど苛烈ではないことは間違いないですが、証券営業の厳しさ、そして面白さを感じることができる作品です。
本作の著者、清水一行氏の生涯をテーマにした「兜町(しま)の男 清水一行と日本経済の80年」では、この作品が生まれる背景が描かれています。
兜町物語が気になった人はこちらもおすすめです。
下記記事で紹介しているのでチェックしてみてください。
1990年代(バブル崩壊期)以降をテーマにした作品
日本の日経平均はいまだバブル期の高値、38,915円87銭を超えることができていません。
この時代は日本経済史の大きな転換の時代といえるでしょう。
この大きな変化の時代に、どのような企業がどのような行動をしてきたのか。
現在の日本経済の状況を理解する上で、このバブル前後を流れを把握しておくことは非常に重要です。
しんがり 山一證券 最後の12人 清武英利
負け戦のときに、最後列で敵を迎え撃つ者たちを「しんがり」と言います。戦場に最後まで残って味方の退却を助けるのです。四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業を発表したのは、1997年11月のことでした。店頭には「カネを、株券を返せ」と顧客が殺到し、社員たちは雪崩を打って再就職へと走り始めます。その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいました。
バブル崩壊後に倒産した当時の四大証券の一角、山一證券倒産の舞台裏を描いた作品です。
なぜ山一證券は倒産したのか、そしてこの日本証券史上最大の倒産劇の中、「しんがり」として、最後まで走りぬいた人々に焦点を当てた物語です。
著者の情熱のこもった文章も相まってノンフィクションとは思えない目頭が熱くなる作品です。
野村證券第2事業法人部 横尾宣政
「人質司法の生贄」、過去最長2年8ヵ月勾留バブル期の野村證券で最も稼ぎ、オリンパス事件の容疑で実刑判決を受けた男が、検察のデタラメなシナリオを、怒りの完全論破!著者が退職する1998年までの20年間、野村證券は金融国際化とバブル経済に湧き、トヨタを上回る約5000億円もの経常利益を叩き出す日本一儲けた会社だった。その激動の時代にトップセールスマンとして多額の手数料収入を稼いだ著者は、しかしその後オリンパス巨額粉飾事件の「指南役」とされて逮捕・起訴。根も葉もない容疑を一貫して認めず、過去最長となる2年8ヵ月もの間、東京拘置所に勾留されることになった。カルロス・ゴーン事件で世界から非難の声が上がった悪しき「人質司法」の生贄となったのだ。著者は拘置所に事件関連資料を取り寄せて徹底的に読み解き、検察が作り裁判所が追認したデタラメなシナリオを完全論破、事件の真相を独力で明らかにした。
前半では著者の野村證券でのリテール営業時代、事業法人営業時代、支店長時代にどのような企業とどのような取り組みをしてきたか、という話を中心に展開され、後半ではオリンパス事件をめぐる検察との攻防について描かれています。著者としてはいかに自身の逮捕が不当だったのか、という部分が最も訴えたい部分だとは思いますが、個人的には前半部分の野村證券時代の話が断然面白いです。
獅子のごとく 小説 投資銀行日本人パートナー 黒木亮
獅子のごとく 小説 投資銀行日本人パートナー (100周年書き下ろし)
勤務する東立銀行に実家を破綻処理された若き銀行員・逢坂丹。カネに対する執着心を滾らせて米系投資銀行に移籍し、バブル期の日本に舞い戻る。昼夜を分かたず取引に狂奔しながら権謀術数を駆使し、社内のライバルを蹴落としてゆく。世界に君臨する巨大米系投資銀行でのし上がる日本人の虚像と実像を迫真の筆致で描く!
主人公は長くゴールドマンサックスの日本法人のトップとして君臨しており、日本のM&Aの第一人者の一人とも言われる持田昌典氏をモデルにしているといわれています。
日系の銀行から外資企業に移り、泥臭い営業から日本の大企業を巻き込んだスケールの大きいディールを手掛けていく迫力満点の物語です。
一応すべてフィクションの物語ではあるのですが、実際のモデルはかなりわかりやすく描写されており、当時のライブドアによるフジテレビ買収等の日本中で注目された出来事に外資系投資銀行がどのように関わっていたのかをよく理解できます。
おわりに
今後はコロナショックの前後の金融機関の動きがわかるような作品が出てくると面白そうです。
どの作品も当時の時代背景や証券会社がどのような役割を果たしてきたのか勉強できる良作ばかりです。
間接金融から直接金融の役割が大きくなってきている昨今、証券会社について理解することは経済全体をしることに大いに役立ちます。
気になる作品があればぜひ手に取ってみてください。
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